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 2019/1/1 読書記

 大晦日。朝からの掃除も片づき、N響の第九を見終わって風呂も済んで、あと1時間もすれば除夜の鐘という時間にしばらくぶりに記事を書こうとして、結局まにあわずに年が明けてしまいました。元旦にあたってまずは新年のお慶びを申し上げます。

 ひさびさの記事は、昨年読んだ本の中で印象に残ったもののいくつかを取り上げてみます。

  1. 佐藤優『同志社大学神学部――私はいかに学び、考え、議論したか』光文社新書、2015.

  2. 馬場紀寿『初期仏教――ブッダの思想をたどる』岩波新書、2018.

  3. マルクス・ガブリエル『なぜ世界は存在しないのか』講談社新書メチエ、2018.

  4. 菊池成孔・大谷能成『東京大学のアルバート・アイラー――東大ジャズ講義録・歴史篇』(文春文庫)文藝春秋社、2009.

 1はタイトル通り、同志社大学神学部で学んだ著者の自伝小説風作品。キリスト教神学(特に存在論や聖書学)に少し興味を持って手始めに読んだ一冊。無神論を学ぶために入学するも洗礼を受け、大学院修士を終えて、チェコに神学を学ぶために外交官となられるまでが書かれています。私は著者と同学年の生まれなので、同時代の京都を学生としてすごしたわけで、その点でも興味深く読みました。著者にはこのほか、キリスト教(プロテスタント)の入門書として、『神学の履歴書』『神学部とは何か』(ともに新教出版社)などがあって、こちらも有益でした。プロテスタント神学は佐藤さんというよい広報を得ました。

 2の著者は、現在、東京大学東洋文化研究所准教授。初期仏教(原始仏教)に関する、とてもバランスのとれた、しかも新しくて面白い概説書。来年度の大学の仏教概論のような講座に、きっと多くの先生が基本図書の一つとして採用されることでしょう。次に切実に求められるのは、大乗仏教に関する、最新の成果を踏まえた同様の概説書でしょう。

 3は若きボン大学教授(哲学)による、ポストモダン以後の「新しい実在論」を提起した話題の書。すべてのもの・ことを包摂するような全体としての「世界」はそもそも存在しないがそれ以外のすべては存在すると述べる中で、科学の限界を指摘し、他方で宗教や芸術の意味についても言及します。平易な言葉づかいと身近なたとえを用いて書かれてあるので、門外漢でも読み進められます。ポストモダンのニヒリズムを経て、「批判性・平等性の価値を再獲得する新しい啓蒙主義の運動」(訳者あとがき)を示した本として、おすすめします。仏さまの有りようを現代の視点から考えるということからしても示唆を得られる本なのではないでしょうか。

 4は二人のジャズ演奏家・評論家による東大ジャズ講義録。バッハの「十二音等分平均律」からモダンジャズの台頭、さらにMIDIに至る音楽史を「音楽の記号化」というテーマのもとに一気呵成に怒濤のごとくたどりきるという講義を本に編集し直したものです。授業は実際に音源を教室で盛大に流しながら進めたものらしく、その時流した曲のデータが本に詳しく掲載されています。文庫本が十年前に刊行された本ですが、これをいま読んで楽しいのは、そうした音源を読者はいまではほとんどYoutubeから聴取できること。「あんな曲やこんな曲、果てはこんなフリージャズの曲までも大学の教室で流して講義するなんて、さぞかし痛快だったろうな」などと想像しつつ、一気に読みました。「キーワード篇」が続編にあるも未読。なお、お二人はこの後同様の仕掛けでマイルス・デイヴィスに特化した東大講義と書籍化をされています(『M/D マイルス・デゥーイ・デイヴィスIII世研究 上下』河出文庫、2011年)。先に手に取ったこちらの方もひどく面白かった記憶があります。

 


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付け足し: アバターとアヴァターラの距離(2004/3/13)